ルーム


愛想を尽かして出て行ってしまった君にこうして手紙を書くことに意味などあるのだろうか?
そう自問自答しながらも、どこにいるのかしらも分からない君に手紙を書く。
いわばこれは僕の為のセラピーなんだ。
もうすぐ君と二人で住んだこの家も引き払わないといけなくなってしまって
想い出もわだかまりも何もかもが瓦礫となれば、僕は新しい自分になれると信じているんだ。
それが全くの正解とは言えないものにせよ、そうすることで何か自分に決着をつけないと
前に、先に進めない。
そう、君に良く怒られたね
「ねぇこの世に正解なんてないの。貴方が正しいと思うことが正解なんだよ」
僕はそんな風に物事を考えることができなかった。
全てにおいて万物には正解があり、正解を重ねることが人生での勝者なんじゃないかと思っていた。
今でもそう思っているかもしれない。
僕は今でも正解を探し続けて、君は君の正しい道を進んでいるのだろう。

二人で住んでいるときはとても狭く思えた部屋が、今じゃとても広く感じる。
君の指定席は今でもそのままにしてある。
君がいつでも帰ってきていいように。
もう5年経った。
5年で色々なことが変わった。

一人でだってうまく洗濯できるようになったし、簡単な食事なら作れるようになった。
仕事は続けているけど、近々大きな異動があるらしい。
それで僕がどうなるかは分からない。
出世も組織も派閥も関係なくなれると思うと嬉しい反面、寂しい気もする。

明日も分からない僕は、今、君をとっても必要としているかもしれないけど
君にとって僕はもう不要な人間なんだろう。

それを考えると、今夜も眠れそうになさそうだ。
月が大きくて、目が痛くて、今夜も眠れそうにないよ。