未来を変えにきた男 その水曜日


俺の未来を変えに、この黒タイツの男はやってきた。


「11年後に人類に未曾有の出来事が起こります。貴方はその時に人類を導く灯となるのです」
何度聞いただろう。
この黒タイツの男はことがあるたびに、同じことを言いやがる。
まるで壊れたテープレコーダーみたいに。
おっと、未来から来たコイツにテープなんて言っても分からないだろうけど。
「未来ってどんな感じなの?やっぱり車は空を飛んでるのかい?」
ありがちな未来予想図を聞いたけど11年後の未来なんて今とあんま変わってねーか。
そんなことを聞くのは野暮なんてもんだな。
「私自体はユニバーサル・センチュリーUC0079年から来ました。2022年の
その事件によって未来にも大きな影響が出ています。
今なんです。今この時期に貴方を助けておかないと、のちの全ての人類が大きく損なわれるんです」
そんなことを言いながらも、この黒タイツの男は駅前の「富士ソバ」で天ぷらソバを食ってやがる。
「あのさ、いつになったら未来に行くんだよ!レンタカーで車を借りて
津田沼の駅前でソバ食ってる場合かよ?」
そうなんだ。未来に行くって言うのに、未だに2011年の現在にいやがる。
そのくせ、何か聞いても未来は大変だしか言わない。
大体、ロボットのくせになんでソバ食ってんだ、こいつ?
謎は深まるばかりだ。
どうしようもない人生の助け舟だと思っていたが、俺が人類に関わることなんて
そんなことあるわけない。
だとしても、こんな金のかかるようなドッキリを仕掛けられるほど、俺は有名じゃない。
いってみれば素朴でありきたりな人生の落伍者の俺に出来ることって?

富士ソバから流れる独特の演歌を聞きながら、二人でソバをすすっていると
外に黒塗りのベンツが数台止まった。
中から見事にヤクザらしい人たちが出てきてこっちを見ている。
マジかよ!もう俺たちを探し出したのか?だからこんな津田沼あたりじゃすぐ見つかるんだ!
まだ外でヤクザ達はパン屋でOLがパンを品定めするようにこっちを見ながら
確証を得ようとしている。
俺は奴らにばれないようにタイツの男にそっと耳打ちしようとした刹那に
またもやタイツの中からベレッタを取り出し新しいマガジンをセットしヤクザに発砲しだした。
いつのまにかタイツの男はヘルメットを着用している。
ロボットなのに何故ヘルメットを?そんなどうでもいい疑問もヤクザが打ち返してきて吹き飛んだ。
俺も当たるじゃねーか!
未来に行く前に死んだら意味ねーじゃん!
「おい!俺は!」と泣き叫ぶとタイツの男はタイツの中から黄色のヘルメットを取り出した。
これを被れと?

なるほど!未来の世界のヘルメットだな!これがあれば拳銃の弾も安心って
裏みたら普通の工事現場用のヘルメットじゃねーか!
なんだよ。これ。
「早くこっちに」
タイツの男はほとんどのヤクザを打ち殺してしまった。
奴らのベンツに乗り込み車を出すタイツの男。
腰に一発、右の肩口に二発、弾がめりこんでいる。
そして血が滲んでいる。
え?血?
こいつロボじゃねーの?
様々な謎が交錯し、ベンツの助手席で俺は気を失ってしまった。
一体この先どうなるんだ、俺。

(続く)