嘆きの夏休み


ある真夏の午後、朋輩の川越フーコーに呼び出され、いつものジョナサンに行った。

先にドリンクバーの注文をしていたフーコーだったが、その姿に元気がない。
「どうしたのだ?」とワタクシが水を向けても返答は

「うーむ…」

と唸ってばかりのご様子。

ワタクシも少しエロい感じの多分人妻であろう従業員にドリンクバーを頼み
野菜ジュースをグラスに注ぎ、アイスコーヒーも別のグラスに注ぎ
ジャッキー、ユンピョウの二大スター共演よろしく、
ホクホクとテーブルに戻ってくる。
すると待ってましたとばかりにフーコーが話し出す。

「実はな、ケーキバイキングに行くことになったあの娘のことなんだが…」

確かそんな話しもあったなぁ。遠い目でそのことを思い出す。
ケーキバイキングに係わる記事

「おぉそれで?そのバイキングの娘とは何か進展があったのか?」

自分に何の関係もないからズカズカと人の恋路に闖入してみると

「進展も何も、バイキング娘は貴様の植毛のことで一度頓挫しているではないか!」

と一喝されてしまった。まさに地雷を踏むとはこのことだ。

「あぁ確かにそんなことあったな。すまん。ワタクシの髪の毛なんてどうでもいい。
うん。確かにどうでもいいことだ。それで?」

「何とかまた忙しいスケジュールを空けてバイキング娘と二人でナンジャタウンに行ったんだ。」

ナンジャタウン?こいつ何云ってんだよ。気持ち悪い。
普通行かねーだろ?どの面下げてナンジャタウン行くんだ。こいつ。
とこの年齢不詳の男に面罵したい気持ちを抑えて

「ナンジャタウンとはまた面妖だな。あそこって今どんな感じなのだ?
ワタクシも若年の頃は行った記憶はあるが…」

「今ね、餃子のやっててさ。」

何、餃子って?知らねーし。何でケーキが餃子になるんだよ。おかしいだろコイツ。

「色々な地方の餃子を食べ比べることが出来る、餃子スタジアムがやっているんだよ。
餃子食べ放題だからさ。でも、私、少食だろ?最近胃腸の調子もよろしくないし、
医者からは少し潰瘍の気も出てるから注意しろと言われているんだよ。
だけどさ、食べないわけにはいかんだろ?餃子。小さいからさ。意外といけると思ったんだけど
2軒目の店でダウン。リバースだよ。リバース。力石ばりの。参ったね」

何云ってんだよ、こいつ。そんな爺さんみたいな体なんだから考えろよ、行く場所を。
それに力石ってあの力石だろ?古いよ、フーコー。

「まぁ一回どこかに出かけた事実は事実だなんだからさ、進展はあったじゃないか?
それは進歩だよ。アポロ計画だって人類に大きな一歩だったのだから
その餃子?餃子スタジアムだってフーコーの大いなる一歩だと思えばいいじゃないか?」

と気持ちを切り替えさせようとしても

「あの宇都宮餃子がなぁ…」

と嘆きが止まらない様子のフーコー。
唸るばかりで次の語句も紡がない様子なので、ワタクシが

「いや、今度ね、ハゲが医者で治るらしいんだよ。知ってるAGA?
あれにワタクシ行ってみようかと思うんだけど…」

「うるさい!お前の薄毛の話は私の前で二度とするなっ!!」

と怒られてしまった。

夏休み。
それは少年の日の美しくも、儚い思い出。
大人になると、そうでもないような気がする。