愛しき君へ


先日、最後の力を振り絞り、蝉が生きている証を残そうと鳴き喚いている夏の終わり
朋輩のフーコーといつものファミレスでの会議をしている時だった。

時間を経つのも忘れて会議に没頭していると腹は減る。
フーコーは時に自分の体調のことも考えて「豆腐とひじきの和風ハンバーグ」を注文していた。
ワタクシはまたいつもの生ぬるい食事かと呆れる思いでいたが
料理が到着して、いざ食べる段階になると携帯が鳴り、画面を確認するとメールのようで
食べるのも忘れてメールの返信を考えだした。

ワタクシが頼んだ「サーロインステーキ マカロニウエスタン風」も到着し
ジュウジュウと鉄板の上で甘辛いソースがビチャビチャと跳ね
テーブルの上は油とソースで汚れていく様は、なるほど、まさにマカロニウエスタン
奪い合う拳銃、飛び散る流血、ホクホクのポテト、ちょっと固いニンジン。
ウエスタンだ。これぞまさにウエスタンだと満足しているのに
未だ、フーコーは携帯の画面を見ながらチマチマと返信文を考えている。
皿に盛られた豆腐のハンバーグがどんどん冷めていく。

ダビ「おい。もういい加減メールは後にして、先に食べたらどうなんだ?料理が冷めてしまうよ」
と気遣いを見せても
フコ「バイキング嬢からなんだ。彼女はレスポンスの速度を大事にするからさ。もうちょっとだから」

ダビ「そんなのに無理に合わせることないだろ?
相手のこと考えたら、いつなんどき何があるか分からないんだから
レスが遅くたって仕方ない時だってあるだろうに。なんだその女。二人で飯を食ってるのに
一人で食っているようじゃないか。せっかくの会食なんだからメールは後にしろよ」
といささか押さえつけるような物言いで諭すも

フコ「今、大事な時なんだよ。分かるだろ。
次のランチビュッフェで挽回しないと彼女に捨てられてしまうんだよ」

なみだ目で訴えるフーコーに閉口してしまい、それ以上は何も云わず一人虚しく
血みどろのステーキにかぶりつき、口元を拳で拭っていた矢先
メールの返信文を打っていたフーコーに着信のコールが鳴った。

フコ「すわっ!バイキング嬢だっ!返信が遅くて電話が…あわわ」
と途端に狼狽し、顔はみるみるうちに血の気が引いている。
「とりあえず電話に出たらどうだ?」
とワタクシが歯に詰まったステーキ肉をほじくりかえしながら云うと
意を決したように電話に出ると

↑↑のようにすぐ詫びて、言い訳が解禁されたばかりの夏の鮎のように川面をスルスルと
泳ぐように出てきては消え、最後は謝罪謝罪の連続でペコペコと
「ごめんね。ご飯食べてる途中で…いや…ごめん…」
最後にはごめんしか云わなくなってしまった。
一通り謝罪が済み、誤解?のようなものも解け、
「今度はすばやいレスポンスを心がけるから。うん。早くランチビュッフェ行こうね」
と笑顔で〆た。
ワタクシは肉を食い終わり、ノンカロリーのコーラを流し込み
カウボーイよろしく、マッチで火をつけタバコをくゆらせている。

フーコーは
「良かったよ。機嫌が良くなって。」
と云い、すっかり冷たくなった豆腐とひじきのハンバーグをポソポソと食いだした。
すっかり会議どころの話しじゃなくなり。その後の二人は
見知らぬ男女の盛り上がらないコンパのように、無言と当たり障りのない会話で終始したのであった。

まだ見ぬバイキング嬢よ、貴様の侵略は誠に上手くいっているようだ。
既にフーコーは植民地化された清と何も変わらなくなっている。
しかしだ。ワタクシは貴様には懐柔されんぞ。
ウエスタン風のステーキを喰らっても心は大和魂じゃけん。
ポソポソと豆腐のハンバーグを食うフーコーを尻目にそんなことを考えていた。

そんな矢先にあんな出来事が起こるとは…