そして、僕は、途方に暮れる


先日のジョナサンでの打ち合わせ中のことだった。

いつものように二人で飯を食い、どうでもいい事を話しあっている時に
突然フーコーが食事中にも関わらず
「ちょっと…厠へ」と云いながら足早に席を立った。

幼少の頃、食事中に厠に行って父親に烈火の如く怒られたことがあるワタクシは
「飯食ってるのに厠とはなんぞな?」と云うも既にフーコーは席を立ち、厠へと向かっている。
きっとフーコーは育ちがいいはずだ。
温厚な顔立ち、食事をするときの所作などはワタクシのようにドヤ街育ちとはまるで違う。
そんなフーコーが食事中に厠?気になって行き先を目で追うと、
厠とはまるで反対方向の出入り口へと向かっているではないか。

どういうことだ?

ワタクシは食べていたカレー南蛮うどん 炭鉱男風をのびるのを覚悟でフーコーの挙動を追った。

すると、出入り口を出たところで女人二人と親しそうに何かを話している。

(誰ぞな?こんな辺鄙なジョナサンで知り合いにでも会ったのだろうか?
それにしても何か謝っている様子ぞな?なんぞな?なんなんぞな?)

もう思案が伊予弁を通りこして何だか分からないくらい謎めいてしまった。

(親戚か?まさかなぁ親戚ならあんなにペコペコ謝らないだろう。
まさか…金でも借りていて、それを返さずいるので謝っているのか?)

一人の女は憮然としてフーコーを見下ろし、もう一人の女はその変な雰囲気に居づらそうにしている。

ワタクシは何だかこの情景が、昔、どこかで見たような既視感に襲われる。

そうだ…あれはワタクシがまだ20歳の頃だった。
当時付き合っている彼女に熱を上げていたワタクシは
その全てを投げ打ってでも彼女と一緒になりたかったのだ。
それを人は恋と呼び、盲目の青年は周りの意見なども省みず、愛と言う名の特急列車に乗ってしまう。
それ故に彼女の重荷になりえることも知らずに。
ある日彼女に告げられる。
「あんた、想いが重い。アタイはそれに耐えられない。さよなら」と
行き場の失った特急列車。
駅が見つからない不安。
慌てる運転手。勿論、運転手はワタクシだ。車掌もワタクシなら、車内販売員もワタクシだ。
ワタクシというの名の特急列車は向かうべき場所も寄り所になる駅も見つからない。
ただただ燃料が尽きるまでこのまま走り続けなければいけないのか。
その走る目的すら彼女を失ったことで一体何を意味するのだろうか。
そして迫り来る絶望。
追いすがる。彼女に追いすがる。
謝るワタクシ。
去ってゆく彼女。
聞こえてる大沢誉志幸。
途方だ。僕は途方に暮れている。

そんなデジャヴ。

女達が去ってゆく。
取り残されるフーコー。

今、外で取り残されているフーコーは何十年前のワタクシを見ているようだ。
途方に暮れなずむ、フーコーの背中にはどんよりとした哀愁が漂っていた。

厠に行ったという体だったのでハンケチーフで手を拭いている小芝居をしながら
フーコーが席に戻ってきた。
ワタクシは何も知らないふりでいる。小芝居が切なすぎてワタクシがハンケチ必要なくらいだ。
もうすっかりのびてしまったカレーうどん。
席に着き、何かを感じ取られたくないのか妙に明るく振舞っている。↑↑写真
ワタクシは知らないふりの木偶の坊の体で今後の撮影のことや税金のことなどを
話していたが、フーコーは気もそぞろの様子で言葉に力感がない。

一体あれは誰であったのだろう?
あんな可愛い娘がフーコーの知り合いなわけない。

しかし、その後あんなことが巻き起ころうとは…