未来を変えにきた男 その金曜日


俺の未来を変えにこのタイツの男はやってきた。

このポートタワーからいよいよ11年後の未来
2022年へと行くことになるらしい。不安だ。

千葉ポートタワーは1986年6月に千葉県民500万人突破の記念として建設された展望施設だ。
塔体長は125.2m最高高は137.25m。
展望台までエレベーターで毎分90mで到達する。
1階のショップ兼イベントステージへ入り、そのままエレベーターホールに向かう。
タイツの男はエレベーター前にいる添乗員の女に拳銃を向け発砲し威嚇する。
「大変申し訳ありませんが、直ちにここを占拠したします。危ないので逃げて下さい」
口調は丁寧だが、銃口は女の眉間に向かっている。
女は声も出せずに下にへたり込んだ。
見かねた俺は手を貸して立たせてやり、外へ出るように促す。
「なんかさ、もっとやり方ないのかね?わざわざ拳銃出すことでもないでしょうに」
とタイツの男に柔らかく抗議するも黙殺され、男はエレベーターのボタンを連打している。
連打したところでエレベーターは早く着くわけでもないのに…
数秒してエレベーターが到着すると中にまたエレベーター嬢がいやがる。
同じだろう。と先ほどのことが脳裏に浮かんだ。
タイツの男は同じようにエレベーターを操作する女に拳銃を向け外に出るように仕向ける。
恐怖で顔が引きつり動けない女を俺が動かし外に出した。
二人でエレベーターに乗り込み上へと上がっていく。
「なぁどうやってこのポートタワーから未来にいくんだよ?」
いい加減コイツのことが信用できない俺は半ば面倒臭さに辟易しながら聞いてみる。
「こうやるんです」
突然男はエレベーターの天井板を外しエレベーターの外へと向かう。
おいおい、今どんくらいの高ささと思ってんの?
オマエはいいよ。マジで。俺は?ねぇ俺は?
とこれから起こりうる行動に恐怖を感じていた。
男は吊るしている太いワイヤーロープを軽々と切っていく。
当然緊急警報が鳴り響き、エレベーターは停止。
それでもお構いなく男はロープを切断している。
全面ハーフミラーガラスで覆われているポートタワーは外から中が見えにくいが
中から外は見える。近くの製鉄所からの煙が見えていた。煙は黒煙を排出し上空に消えていく。
と、思う間にガクッエレベーターは横に動いたかと思うと、高速で下に下がっていく。
一瞬だけ下に強烈なGを感じた俺は体ごとエレベーターの天井に叩きつけられる。
「な、なんだよ!怖ぇ!」
苦手なんだ。子供の頃からジェットコースターは苦手なんだ。
あの上から下がり落ちる恐怖。何なら少しばかりおしっこが漏れてしまったようだ。

漏れ出す尿に恥ずかしさを感じながらも俺はプッツリと意識をなくしてしまったようだ。
体に怪我はなさそうだ。
少し首が痛いが致命的ではない。
辺りを見回すと何だか異様な気配に気付く。
「ここは…」

「2022年の千葉県ポートタワーです。加速するエレベーターの力を利用し
11年後の未来に来ました。貴方がここで人類の為に希望となるのです。」

これは、一体。
明らかに空の雰囲気が違う。
俺は何も言えず自分の置かれた状況に馴染めないでいた。
幾分空気が薄いような、まるで登山でもしたかのように酸素を取り入れるのに少し苦労する。
昼間なのに空は暗く、タイツの男のやけに赤いシャツだけがくっきりと不吉に鮮やかに見える。
「もうこの惑星は終わりを迎えます。ある一定の階級の人々は地下のシェルターに
避難し、迫り来る危機に逃れようとしています。私から見たら愚行もはなはだしいのですが
それも仕方ありません。それでも地下に逃れても生きてはいられないのですがね」
どういうことだ?
「あのさ、一体何が起こるんだよ?まさか地球に隕石でもぶつかって粉々になるとかって
ことじゃないだろうな?衝突した隕石が地球の地殻変動を刺激して地球が丸ごとなくなるみたいな。」
俺はありきたりのハリウッドムービーの地球滅亡シナリオを思いつくままにぶつけてみた
「まさしく、その通りです。もう隕石は地球圏に近づきつつあります。
今の速度にいけば数日後にはこの地球という惑星は崩壊するでしょう。
そこで貴方が核ミサイルとなってその隕石を地球の軌道から外してもらうのです。

は?
どういうことだ?俺が核ミサイル?
「貴方が人柱となって地球の危機を救うのです。」

(続く)