妙味


以前、朋輩のフーコーと昼メシを食っているときだった。

その日フーコーは割りと薄味のあっさりとした翡翠麺を頼んだ。
横には調味料としてラー油が付属している。

フーコー「ぬしはこのラー油の意味が分かるか?」

突然、フーコーのラー油問答が始まった。
あっさりした翡翠麺にラー油。答えは簡単。
ワタクシはすぐさま反撃に出た。

ダビデ「あっさりとした薄味の翡翠麺だから、食べているうちに物足りなくなる
それで途中からでもラー油を入れて味を変えてはいかがでしょう?という店側の配慮だ」
とワタクシは完璧な答えを出す。

するとフーコーはかぶりを振りながら

フーコー「その側面は間違いではない。しかしながらおぬしは拙者の問いの本質を理解していない
今、拙者の前に置かれている翡翠麺は世間だ。
ここ長らく不況が続いた現在、どうしても閉塞感が生まれている。
あっさりとして、後味良く、見た目も良く、爽やかで清潔。
当たり障りの無い世の中になっているとは思わんか?
不祥事が起こればネットで叩かれ、あることないこと吹聴され、皆、怯えている。
体裁を整え、過保護すぎるほど消費者に寄り添おうとしている。
まさに世間がこのあっさりで健康で爽やかな翡翠麺ではなかろうか?
そして、このラー油。一指しでこの爽やかな翡翠麺に妙味を与え刺激的な味わいになる」

確かに云いえて妙だ。
世間は見えるものには強烈にバッシングをし、見えざるものには何も云わない。

フーコー「そして我々はこのラー油のように妙味を生かしてこれから活動しなくてはいけない」

うーむ。もっともだ。今日のフーコーはもっとらしくて二の句がつげない。
ワタクシは腕組みしドバドバとしょっぱなからラー油を注ぎ込むフーコーを凝視した。

ダビデ「とまれ、最初に味を確かめる前にそのようにラー油を入れて良いものか?」

フーコー「刺激が足りないのじゃ。この真っ赤になった翡翠麺の如く我らも昇竜になろうぞ」

気炎逆巻きながら翡翠麺を食らうフーコー。


そんなにスパイス的なラー油を入れたらその味だけになってしまうのではない?
我々も個性という名のラー油を世間に投じなければいけないのに
そんなに入れたら個性もクソもなくなってしまうのではないだろうか?

少し心配の若葉の候。