その左手からこぼれ落ちるもの

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「宙(そら)に上がるのか…」
私は何度も左手を挙げて彼女の意志である宇宙コロニー行きを制止させようとしていた。
政府と民間とで作り上げたコロニーは今、地球の軌道上に3基出来つつある。
宇宙世紀と謳われる以前の地球は民族と民族とが罵りあい、戦う歴史だった。
一つの可能性を持って、宇宙移民という事業が行われだした。
無論、その事業に尽力し、死んでいった多くの犠牲があってのことだ。

最早、宇宙移民という言葉がちょいと長距離バスに乗って出かけていく気軽さに変化しつつあるが
私は未だに宇宙へ行きたいなどとは思わないし、ましてや移民してコロニーで暮らすことなんて
想像もつかない。
悪い噂も聞くし、あまりに宇宙移民の数が多すぎる気もするからだ。

彼女は私のそばに居て、一緒に暮らして欲しい。
確かに現状の生活は厳しい。
仕事は減っているし、物価も高い。
全てが連邦政府になったことの弊害が我々庶民にも影響が出ている。
戦争のない平和の社会になったはずなのに、何故か生活は荒んでいく。
こんなことに為に全世界規模で革命をしたのであろうか?

私は彼女にしつこく左手を挙げながら説明するが、彼女の意志は固く、
来週にも宙にあがるらしい。
私には宇宙にいくことも、現状を変えることも出来ず
虚しく挙げた左手をさげることしか、今は出来ないのだろうか。