〆子の憂鬱

「どうして私は〆子なんて名前にしてしまったんだろう?」

〆子の悩みはアダルトチャットに登録した時に何気なく使ったハンドルネームに
今、自分自身が苦しめられていることに気づいた。
〆子は24歳で顔も女優の何とか菜々子似でスタイルも抜群。
トークの力も半端なく、大胆に脱ぐことも出来た。
ある常連の男性(さいぞうさん)は
「〆子に会うと明日への勇気が湧いてくる。本当にありがとう」
と言ってくれる。
また、ある常連男性(redこういちさん)は
「〆子、俺のリアル婚約者になってくれ!〆子以上の女は現れねー」
と言ってくれる。
〆子は従来のサービス精神の多さから、どんな嫌な男にも愛情を持ってそそぐ。
意図しない額のお金を稼ぐことも出来た
サイト側が選ぶナンバー1にもなれた。
すごいアダルト女優を呼ぶイベントがあっても、〆子がいると黒ずんだ窓ガラスのように見えた。
アダルトな芸能事務所が〆子を放っておかなかった。
目ざとく、〆子にアプローチをかけスカウトしようと画策した。
芸能事務所は大事に〆子を育てて、女優業や歌手などの道を模索している。
4歳からやっているピアノのおかげで〆子は絶対音感を手に入れていた。
感受性が高く、演技も上手だった。
5か国の言語を操れ、料理は調理師免許を持っていた。
バイクや船舶免許を持ち、運動神経は抜群で、水泳の国体にも出ていた。
デザインの才能もあるので自分で自分のブランドを立ち上げることだって可能だった。

その類まれなる才能を活かす手はない。

だが、条件は〆子という名前を使い続けることだった。

そこで、冒頭のように〆子は今になって、はたと気づくのである。

「なぜ、私は〆子なんて名前にしてしまったんだろう?」

しめこ

今更、本名の名前で出ることは叶わない。
せめて、子をつけるんじゃなかった。
何か古い。
いや、とてつもなくダサい。
〆子 アルファベットにしたらどうだろう?

simeko

呼ばれるのは〆子なんだから、同じことじゃないか。

根本的に変えないと私は〆子として、一生生きていかなくてはいけない。
〆子主演
「愛の予行演習」

ダサい。

後悔が〆子を襲う。このままアダルトチャットで終えていくことのほうがいいのかもしれない。
〆子として終わっても、自分の才能があればきっと大丈夫。

そう思いチャットを卒業する日がきた。

今日まで本当にありがとう。
〆子卒業はサイト運営者から大規模なイベントになった。
一か月間、〆子はチャットに出続け、前人未踏の記録を作り 伝説になった。
〆子の記録や記憶はやるせない男達に幸せを与え、
夢や生きる希望を与え、人生の尊さを与えた。

夢のような日々は終わった。

〆子の新しいスタートが始まるはずだった。

〆子は本名でまっとうな芸能事務所に入りタレントとして売り出していくことになる。

「私、〆子としてではなく、本名でやっていきたいんです」
〆子は直訴した。
そして、了解を得た。

〆子の本名は 「田原坂瑠美子」

その後、田原坂瑠美子は類まれなる才能を活かせず、ひっそりと7年後に引退した。
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↑↑の写真は〆子がいなくなり途方にくれるredこういちさん