それはそれはお気の毒に…

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気の毒カフェの二人はいつもひそひそ話をしている。
客がいるにも関わらず、こちらには聞こえない声で何かずっと神妙な顔をして
ひそひそと、時にため息まじりで何かを話している。
その話声が気になって気になって仕方なくなった。
私は作家の楡山小朗太だ。
作家と言っても基本はアルバイトをしている。
今年で44歳になる私は週に数回駐車場の警備の仕事をしている。
大体夜勤で二日間拘束される。
それでも慣れたもので、ペースさえつかめばこんなに楽な仕事はない。
今までそんなに危険な目にもあったことないし、完全にマニュアル化されているので
逆に毎日が退屈で仕方がない。
ビルの巡回中も小説のことを考えていれば、時間が経つのもアッと言うまだ。

そんな疲れた体や脳を癒すために「気の毒カフェ」で気の毒ブレンドを飲んでいると
ヘルメットをかぶった店員のひそひそ話が気になった。
何か私についての悪口でも言っているんじゃないかと気を揉んでのことだが
注意深く彼らの話声を盗むように聞いてみた。
(幸いと言うか普通じゃ考えられないがこの店にBGMはかかってない
何故BGMをかけないのか?と聞いてみたら有線に払う金がないということだった。
なんて気の毒な店なんだ)
シーンと静まり返った店内で意識を彼らのひそひそ話に耳を集中させると
黄色ヘルメット「そうなんだ。四十肩で?腕が上がらなくなったんだ?それはお気の毒に」
緑ヘルメット「そちらこそ、膝の軟骨すり減ってるんだって?お気の毒に…」

二人の気の毒な体の不調の話だった。

何せよコーヒーが不味くなるからひそひそ話はやめて欲しい。
というか、せめてBGMくらいかけてくれ。

気の毒な店だ。