陰影ラーメン
気の毒カフェの並びにラーメン屋がある。
赤い暖簾が下がった、扉を横へガラガラっと開ける、
古いタイプのラーメン屋。
店が西に向いているからか、
夕方には通りに面した窓からオレンジ色の陽がよく入る。
差し込む夕陽が強ければ強いほど、
店内はますます憂鬱になる。
オレンジの光は同時に強い影も作りだし、
客がすするラーメンに盛られた野菜でさえ影を落とす。
野菜の左側はまぶしいほどなのに、
右側は絶望的な陰影だ。
店に話し声は一切なく、
ひたすらにラーメンをすする音だけが響く。
食べ終われば皆、ラーメン代金きっちりをテーブルに置いて出ていく。
誰一人として釣銭が必要な額を出さない。
代金きっちり。
店主はありがとうございましたの一言もなく、
空いた皿をさげ、客が置いた代金をレジへ入れる。
陰影ラーメン380円
壁に書かれたメニューにはこれしかなく、
客は注文すらしない。
下を向いたまま丸椅子に座り、
何も言わずじっとしているか、
たまにため息が漏れるだけ。
店主はいらっしゃいませすら言わず、
順番を守ってラーメンを出すだけ。
やがて日が沈むころになると客足は途絶え、
ガランとした店内は蛍光灯に煌々と照らされる。
もはやそこに陰影はなく、オレンジ色の憂鬱も消え去った。
店主は調理場から出てくると
カウンター席の一番奥に腰掛け前掛けを外す。
白い光を発するラーメン屋に客が来ることはなく、
店主は暇をもてあましている。