素晴らしい青年

電車の中ではお年寄りに席を譲るのが道徳、とされているものだと思い込んでいましたが、最近では席を譲ってもそれを断るという光景をよく目にします。健康のためにあえて立つ、すぐ降りるからこれくらいは大丈夫、等々座らない理由はいろいろあると思いますが。
先日も、とある中央線で、座席の一番端に座っていた20代くらいの青年が、お年寄りが乗ってきたのを見て立ち上がりました。
ロマンスグレーの女性、席を譲るべき対象の年齢で間違いないと思います。私も席を譲るのに同意します。それくらいの年齢の女性でした。
しかしその女性は青年の申し出をかたくなに断り始めました。どうぞお座りくださいと、青年にすすめます。しかし一度立ちあがったものをまた座るのもバツが悪い。青年も座ることを拒みます。
「どうぞどうぞ」「いえいえ」
この平行線のまま、いったいどうなるのだろうと、近くにいた私は興味津々になりました。
しかし素晴らしかったのはここからの青年の対応です。
座る座らないの攻防を早々にあきらめ、世間話を始めたのです。
ホントに他愛もない世間話ですが、話はそこそこ弾みます。ハタから見ててなかなか気が合うんじゃないかってくらい不自然に途切れず、会話は続いていきます。なんなら女性も少し前のめりで話しています。でもよく聞いていれば、この青年が上手く会話してることが分かります。
若いのに、実に紳士でスマート。日本もまだまだ捨てたもんじゃないと、わたくしオジさんは目を細めます。

やがて電車は新宿駅に停車。多くの人が降りていくその波に乗るように、青年は女性に挨拶をして下車していきました。最後まで実に爽やかでありました。

そしてガランとなった車内、座席も7割ほどが空きました。
するとその女性、ひとつ息を吐いて席に、ちょうど青年が譲ったその一番端に腰をおろしました。

座るんかい!

声を出して、そう突っ込みたかった所存でございます。